Our Medical Strength 5 – 声の緊急事態への対応

声の不調を感じたら早めの受診を!

声帯は通常とても丈夫で耐久性のある組織として知られていますが、一度その許容範囲を超えて強い炎症を引き起こしてしまうと、完全な回復までには相当な長期間を要する「熱しにくく冷めにくい」特徴を持つ器官です。したがって、症状が出始めた段階での早めの対処が非常に重要となります。一方、一般的な風邪に罹患した場合でも、多くのケースにおいて上咽頭に急性の炎症が生じていますが、適切な処置を行うことにより、より早期の回復を目指すことが可能となります。当院では、パフォーマーの方々が直面する声の緊急事態に対して、できる限り迅速かつ適切な対応を心がけています。特に重要な本番を控えている中で急激な声の状態悪化に見舞われ、不安を感じられた際には、どうぞためらわずに当院までご連絡いただければと存じます。

近年のライブブームで、ポピュラー音楽の歌手のスケジュールはどんどんタイトになっています。また、ミュージカル、演劇や声優の世界も同様の傾向にありますので、声のパフォーマーにとって、コンディションは保ちにくくなる一方です。Covid-19流行後は、現場に感染症が蔓延することも珍しくなくなりました。コンディション管理が最も厳しいクラシックや、パフォーマーの数が少ないために一人当たりの公演数が多い伝統邦楽においても、声の緊急事態にすぐに対処できる医療機関が望まれています。

声の緊急事態の中で最も重要なのは急性声帯炎です。特に、声帯の粘膜上皮が白色にはがれて浮かび上がってしまう(鉄棒を急にやりすぎたときに生じる「マメ」のようなものとお考え下さい。)「偽膜性声帯炎」は、声帯振動を強く阻害し、ひどい場合には完全に失声状態となります。いわゆる「声が飛んだ」状態の原因として最も多いものです。一度この状態になると、最短でも回復には3週間程度を要し、無治療で様子を見た場合には声帯結節として残存してしまうこともあります。「偽膜性声帯炎」は、単純な声の使い過ぎで生じることもありますが、感冒等で喉全体が炎症状態にある時に声を酷使することで生じることが多いようです。

偽膜を生じる前段階として、声帯全体が腫れてむくんだ状態になる「浮腫性声帯炎」や、偽膜は生じずに声帯の一部だけが発赤・腫脹しているだけの場合には、適切な治療を施せば、より早い回復も見込まれます。感冒症状の一種としての声がれの場合には、「声門下喉頭炎」といって、声帯そのものではなく、声帯の裏面から下側だけに炎症が生じ発赤している場合が多く見受けられますが、この場合も、声帯自体の炎症よりも早く回復するのが通例です。

いずれの場合にも、タイトなスケジュールの中で回復を図るには、強力な抗炎症作用を有するステロイドの投与が必要となります。特に「偽膜性声帯炎」の場合には、ステロイドの点滴治療の効果が高いことが知られています。完全回復を可能な限り早く実現するには、インターバルを置いて複数クールのステロイド加療が必要となることもありますが、当院では副作用の軽減に十分配慮して投与しています。

一方、急性上気道炎(いわゆる風邪)も、パフォーマーのコンディショニングの最大の障害です。風邪の際には、症状が悪化する前に上咽頭の炎症が先行することを多く経験します。逆を言えば、急性の上咽頭炎を制御できれば、風邪の悪化を防ぎ、早期に回復する可能性が高くなると考えられます。声帯と同じく上咽頭も「初期消火」が肝心です。当院では、上咽頭擦過処置および薬剤投与により、急性上咽頭炎の早期制御を図ります。

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